雪月花 Kyoto

Setsugekka

NOTES

五感に与えるイメージも重要なファクター

京都「雪月花」はそれぞれ独立した"雪" "月" "花"という名の空間をもつナイトクラブである。

エントランスを入ると十数メートルにも及ぶ鉄の露地がほの暗いロウソクの明かりに浮かび上がる。行き着く先にはそれも鉄板の坪庭がある。まずこの庭に面して"月"がある。

ここはメンバー制で、よりプライベートな空間にするため入り口に細工を施し、それを知る人しか扉を開ける事が出来ない。濃い紺色のもみ紙を貼った壁と天井の内側に山吹色に染色した麻糸をテンションをかけて張り巡らせた空間で、まるで繭の中にいるような雰囲気にさせる。そしてこの"月"は、年間数回の改装を季節とともに行えるように出来るだけフレキシブルな構造にしている。

鉄の庭に浮かぶ大きな行灯を横目で見ながら、ブルーのライトに誘われるように地下へ降りていくと"花"がある。このメーンのバーでは既設の無垢のトチ材の古いカウンターだけを残し、以前厨房のあったところに女性用の洗面トイレを新設した。そのほかはできるだけシンプルな形態と色を基本にまとめた。そしてここは、光と影の分量をわざと大きく光の方に傾けている。光と影の差が極力少ないわけである。既設の壁の内側に作られたアクリル壁に張込んだ大判の和紙から立ち上る淡い光は、人工大理石の白い床や当ビルの建築当時(大正7年)の意匠そのままの天井に反射して優しい色となり、来る者を包み込むようにして時間を忘れさせてくれる。"花"のカウンター越しに奥を見ると普段は開け放たれた開口部から"雪"のカウンターの上に生けられた花が切り取られた絵のように見える。"雪"は予約制の個室で他の空間とは切り放され、京都の伝統的な席屋の文化を新しい形で表現しようと試みている。熱さ6?のトチの無垢材の床とカウンターで桟座席をつくり、1階の個室同様ここでも漂白した麻糸を張り巡らせて"音もなく降り続ける雪の風景"をイメーシしている。

「雪月花」では、これらのインテリアデザインに加え、音や香りといった五感に及ぼすイメージも空間というドラマを構成する重要なファクターとしてとらえている。音は空間全体に提供するのではなくその場所によって異なる音で構成され、その強弱や微妙な重なり具合によって楽しめるよう特別に企画した。たとえば鉄の露地の入り口と出口では違った音の印象を与えるわけである。香りもそれとわかる微妙なバランスで空間を漂っている。僕は、その空間の存在意味を考える時、常にそこに人の肌の温もりのようなものを考える。それは直接肉体的な意味もあるし、もっとラディカルな意味も含んでいる。そういったスタンスからの自分の思いどおりの領域までインテリアデザインとして表現できたことは初めてのことだった。

SPECIFICATIONS

WEBSITE
http://www.kyoto-setsugekka.com/
所在地
京都市中京区三条通富小路SACRAビル1F+B1F
SACRA Bld.,Sanjyo-dori Tominokouji Nakagyo-ku Kyoto-shi KYOTO,JAPAN