明示的な仕切りを超える空間の標(しるべ)

A signpost for a space that transcends explicit boundaries

HAZAKAKE 衝立

HAZAKAKE screen

PHOTO : TIME&STYLE

NOTES

かつて日本人の暮らしは、柱と屋根を基本構造とする壁の無い軸組の建物に御簾(みす)や蔀戸(しとみど)などを立てて空間を仕切る可変的なものでした。日本的空間原理の本質は、この「仕切り」に対する感覚にも表れています。日本人にとっての仕切りには「認識の仕切り」と「明示的な仕切り」の二つがあります。工業化された近代以降は、壁などの「明示的な仕切り」でなければならなくなっていますが、もともとの日本人の感覚では空間に「線を一本引いた」ものも立派な仕切り(明示的な仕切り)だったのです。
空間においても、自分の認識によって自在に「仕切り」をつくったり消したりしていたのです。
舞台における黒衣(くろご)の存在は、日本人にとっては「ないもの」として認識できますが、欧米人には「不思議な黒い衣裳を着た人」として「あるもの」に認識されます。
HAZAKAKEは、日本の稲刈りの風景を表現した竹の衝立ですが、その機能としては「明示的な仕切り」を超えることのない空間における標(しるべ)の様な家具です。


MATERIAL
⑴晒竹(白竹)/真竹・苦竹(マダケ)
竹は、世界の温暖で湿潤な地域に広く分布している。元々が南方系の植物なので、大型の竹の日本の北限は北海道の南の端にある松前町という所です。世界には約1300種、日本だけでも約600種があると言われています。日本で主に活用されている竹は孟宗竹、真竹、淡竹の三種類で、日本三大有用竹と呼ばれます。真竹・苦竹(マダケ)は、直径15cm、高さ20mになる大型種です。材質部は薄くて節間が長く、節には環が2つあるのが孟宗竹との違いです。
真竹は筍の味から苦竹とも書きます、この竹を熱湯で油抜きしたものが白竹です。白竹は冬の寒風に晒して美しい乳白色に変わりますので晒竹(さらしだけ)とも呼ばれます。

⑵染煤竹(そめすすだけ)
煤竹は、古い茅葺き屋根民家の屋根裏や天井で、100年から200年以上という永い年月をかけ暖炉裏の煙で燻されて自然についた独特の茶褐色や飴色に変色している竹のことですが、昨今は囲炉裏そのものの数が希少傾向にあり天然の煤竹も貴重品になっている。染煤竹は、一度晒竹に仕上げたものをさらに煤色に染め加工したもので煤竹の代用として使われる。

⑶京組紐 角八
京組紐は京都府京都市、宇治市周辺で作られている紐です。古くは平安時代から仏具や神具などの格の高い品に用いられ、皇族や貴族など位の高い人々の装飾品としても使用されたことから、都であった京都で発展していきました。京くみひもの特徴は、複雑に組み上げられた繊細な編み目と優美な光沢です。また、優雅な見た目だけでなく実用面でも優れており、なかなか切れない強度と締めた時のしっかりとした締まり具合には定評があります。
「角八」は断面が四角い構造をした組紐になります。丸みを帯びた「八つ組」と同じ8玉ですが、こちらの組み方の方が少し硬い形に組み上がります。また細めに組むとシャープな紐が仕上がります。

⑷ 杉柾目浮造り
杉(スギ)は、日本の固有種で日本にしか生育していない植物です。
日本の杉は、ヒノキ科スギ亜科スギ属 に分類される常緑針葉樹で、学名をCryptomeria japonica(クリプトメリア ヤポニカ)といいます。Cryptomeriaは「隠された宝」、japonicaは「日本の」という意味です。
古代から日本では神社仏閣や住居などの材料としてスギが使われ、伐採したあとの山には苗木を植えてきました。いにしえの時代から活用範囲が広く、生活に身近な樹木。まさに杉は「隠された日本の宝」といえます。
浮造りとは、日本古来の板目を活かした加工技術のことです。木の柔らかい部分をへこませて、年輪を凹凸に仕上げます。柔らかい木ならではの仕上げ方法で表面強度が増すだけでなく、木目が浮き上がったようになり影を含んだ柔らかい表情になります。

⑸鉄媒染
鉄媒染とは、木材に含まれるタンニンと鉄分を反応させて、深い黒色に染色する技法です。古民家の囲炉裏の煙で燻された梁のような黒光りした風合いが特徴で、木材の肌触りや質感を残しつつ色味の重厚さを出すことができます。

SPECIFICATIONS

クライアント
株式会社プレステージジャパン
WEBSITE
https://www.timeandstyle.com/jp/
発表
2025年4月 8日
設計
辻村久信・高野菜々絵・片岡優花
種別
衝立
製作
竹・組立:竹又 中川竹材店 中川 裕章
製作協力
ベース:FUTURA家具工作所 岡田 好生
アジャスター:コンブ金物 昆布 雅彦
組紐:有限会社昇苑くみひも 能勢 将平
サイズ
Low w1202 d150 h1350/High w1202 d150 h1800
マテリアル
①晒竹×ベース(杉柾目浮造り仕上げ)×アジャスター(アルミニウム)×組紐(3.5mm 角八 朱色)

②晒竹×ベース(アルミニウム+バフ研磨仕上げ)×アジャスター(シナベニヤ)×組紐(3.5mm 角八 朱色)

③染煤竹×ベース(杉柾目浮造り+鉄媒染仕上げ)×アジャスター(アルミニウム)×組紐(3.5mm 角八 象牙色)

④染煤竹×ベース(アルミニウム+バフ研磨仕上げ)×アジャスター(シナベニヤ)×組紐(3.5mm 角八 象牙色)
撮影
TIME&STYLE
平面図